飲食就活生のエフラボトピックス

エフラボ
茂木先生のひとり語り 日本の外食をひもとけば vol.1
※編集部注:このコラムは2020年2月1日の本誌発行時に掲載されたものを元にしています。2020年4月1日現在、次回オリンピック開催は2022年が予定されていますが、本文中の2020という表記はそのまま掲載いたしますことをご了承ください。

東京オリンピック・パラリンピックの「ビフォー・アフター」

1964年以前、日本には存在しなかった「ホスピタリティビジネス」
2020年開催の東京オリンピック・パラリンピック。第1回が1964年で、今回は2回目だ。
東京オリパラ開催の「ビフォー」と「アフター」では、日本社会がすっかり変わる。だから、2020後の世界も変わる。そう就活も、就職後の社会も今とは違う世界だ。皆さんは2020「アフター」世界の1期生なのだ。
1964「ビフォー」では、ホスピタリティビジネスはなかった。ホテル業界も、外食産業も、旅行業界(観光産業)も、航空業界も、ブライダル業界もなかった。国策として政府主導で作られた会社はいくつかあったりしたが。しかし、民間会社がたくさんできて業界を造り上げていくのは、みな「アフター」だ。
国策でつくられた帝国ホテルはあったが、海外から多数の来客があるというのに宿が全く足りない。1964に向けてホテルオークラやホテルニューオータニなどが作られた。ここからホテル業界が造形されていく。

海外渡航さえ禁止されていた64年。そして2020年へ
海外から多数の来客があるというのに、日本からの一般人の海外渡航は禁止されていた。政府はあわてて日本人の海外観光旅行を自由化した。「アフター」に旅行代理店がたくさん生まれた。選手村食堂に94ヵ国7千人余の選手役員を迎えて食事を提供しなければならなかった。メニュー数はざっと2千種類。「冷凍食品」と「セントラルキッチン」方式を採用して対応した。こうした技術を下敷きにして、外食チェーンが誕生した。ホテルでの大宴会・パーティも可能となり、ブライダル部門ができた。東海道新幹線も、必死で間に合わせて開業した。その後に博多まで延伸された。すると博多ローカルの明太子がお土産で大ヒットして全国に広まった。「ビフォー」ではメンタイスパゲッティなど存在すらしていないのだ。

今は、1964「アフター」で、2020「ビフォー」だ。そして2020「アフター」に向けて様々に準備が試行されている。たとえば「AI(人工知能)」。就活では17年から取り入れられ始めた。これまでの人力依存だと、膨大数の履歴書やエントリーシートの全部の熟読は不可能だ。だから学歴や成績表に頼らざるをえなかった。いまは1社に何万人押しかけようが「AI」が1次審査をする。公平だとも実力が問われるともいえる。2次は「スマホ」に向かって面接。自分の「スマホ」だ。どこでもできて、時間の制約もない。曖昧な受け答えだと何度でも聞いてくる。「AI」は疲れない。言い逃れやごまかしには厳しい裁定が下される。

君たちは、「アフター」社会の一期生である。
「アフター」は、ダイバーシティ(多様性社会)だ。2020で多様な人たちがワンチームとなってパフォーマンスを上げる。よいパフォーマンスは、ダイバーシティから生まれる。結果が問われるビジネス社会は即採用だ。LGBT(性的マイノリティ)も普通のことだ。2020でボランティアも観客も、隣はみんな外国人という場面に慣れただろうか。2019年には「特定技能ビザ」がスタートしている。「留学生」のアルバイトや「研修生」とは異なる。企業と雇用契約するのだ。外国人が日本社会に大量参加する時代がはじまった。このビザは、いまは1号で5年間の交代制だが、2号だと無期限だ。
2020選手村では、「アニマルウェルフェア」(動物福祉)に配慮した食材しか使えない。もうすでに世界各地でフレンチには必須のフォアグラは使用が禁止されつつある。餌の与え方が残酷なのだと。 こうなると「植物肉」もブームになりそうだ。
調理には「ロボット」、接客には会話型「ロボット」が実用化されていく。「アフター」では、人は、人の心に働きかける「感情労働」が尊ばれ、「AI」や「ロボット」を指揮する発想力が求められる。君たちはこうした「アフター」社会の1期生としてデビューする。

文/茂木 信太郎

2020年2月掲載

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