飲食就活生のエフラボトピックス

エフラボ
食の仕事の可能性 「OLTREVINO」シェフ 古澤一記氏
かつて、「食べること」はヒトが生きるための手段だったけれど、今はそれだけじゃない。「食」という仕事の意味はますます広く、面白くなっている。食の仕事を“愉しむ人”になること。その先に広がる未来の地図は、まばゆい輝きを放っている。

イタリアの豊かな暮らし方を日本でも

鎌倉大仏で有名な高徳院のほど近く。ガラス張りのワインセラーや店頭に置かれた優しい風合いのアンティーク雑貨に、散策を楽しむ観光客が「なんのお店かしら?」とつぶやいて足を止める。
『OLTREVINO(オルトレヴィーノ)』は、『ワインが中心にある、美食・惣菜の店』をコンセプトとして2010年にオープンした、飲食兼惣菜店。店内で食事を提供するのに加えて、ワインをはじめ、チーズやオリーブオイルなどの食材や調味料、店内で提供されるものと同じパスタソースや惣菜などを販売している。訪れる客は、本格的なイタリア料理やワインを、お店だけではなく、自宅でも気軽に楽しむことができるのだ。イタリアではこういった形のお店を『エノガストロノミア』と呼ぶ。エノガストロノミアはイタリアのどの街にも必ず1軒は営業していて、地元の人たちが食事を楽しんだり、食材や調味料を購入したりする、暮らしに欠かせない場所なのだという。

10代の頃から、目標をノートに書き、そこから逆算してやるべきことを決めていたという。この姿勢は夢を実現するためのヒントになるかもしれない。

暮らしそのものに関われるお店を

「私たち夫婦は、イタリアのトスカーナにある、周りはオリーブ畑とブドウ畑しかないような田舎町の一軒家で10年間暮らしていました」と語るのは、シェフの古澤氏。秋になれば庭のオリーブを収穫してオリーブオイルを絞る。冬は暖炉に薪をくべて暖をとる。イタリア人の友人に「じいさん世代の暮らしをしているな」とからかわれるような生活を送っていたそうだ。

古澤氏がイタリアに渡った当初の目的は、自分の店を持つための料理修業。当初は2〜3年で帰国するつもりだった。だが、日常の食事のために、ワインとそれに合う食材を自分たちで選んで食事の時間を心から楽しむイタリア人たちの『質素でも豊かな暮らし方』に魅力を感じ、この暮らし方を日本でも提案したいと思うようになった。「街にレストランが1軒できても、外食の候補がひとつ増えるだけ。そうではなくて、もっとお客さまの暮らしそのものに関われるお店をつくりたかったんです」。

ワインセラーには、肩肘張らずに選べるワインがずらり。手前には千恵さんセレクトのイタリア雑貨が並ぶ。
『キノコのグリル』、『ポルケッタ皮付き国産豚のトスカーナ風ハーブロースト』、『カレッティエラ』(パスタソース)。 お店で提供されるメニューと同じものを購入できる。

料理人は自由に好きなことを楽しめる仕事

「以前は店頭にショーケースを置いて食材を並べていたのですが、模様替えをしたときに取り払いました。それでも注文の数は変わらないので、このエノガストロノミアという形態がお客さまに浸透してきたのかな、と感じています」。これからは、雑貨や家具、住まい丸ごとリフォームなど、暮らし全般の提案も手がけていきたいと夢を語る。 今でも年に数回はトスカーナに残してある自宅を訪れているという古澤夫妻。「ついこの前も、イタリアで買い付けた家具を自分たちでコンテナに詰めて、横浜港で降ろしてきたばかりです(笑)」。
料理にしっかりと向き合ったうえで自分の『好き』を突き詰め、とことん楽しむ。日本を代表する古都には、今日もトスカーナの風が吹いている。

『OLTREVINO(オルトレヴィーノ)』
〒248-0016 神奈川県鎌倉市長谷2-5-40
TEL: 0467-33-4872
公式ホームページ

2020年2月掲載

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